全天カメラによる赤道プラズマバブルの観測


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はじめに

プラズマバブルは、赤道域電離圏においてプラズマ密度が局所的に減少する現象である。実際に衛星観測によって、2桁以上のプラズマ密度の減少が観測されている。このプラズマ密度の減少領域は、電離層の下部から電離層の上部(赤道上空で1000km以上)まで上昇する。この現象は、泡が浮かび上がることになぞらえて、プラズマバブル(plasma bubble)と呼ばれる。プラズマバブルは磁力線に沿って拡がっているので、赤道上空で高高度まで上昇したプラズマバブルは低緯度でも観測される。


超高感度全天カメラによる観測

我々は、名古屋大学太陽地球環境研究所の 超高層大気光イメージング装置(OMTI) の一部として、全天大気光カメラを2000年7月に鹿児島県佐多町 (31.0N, 130.7E; 地磁気緯度 24N)に、 2001年10月にオーストラリアのダーウィン (12.4S, 131.0E; 地磁気緯度 22S) にそれぞれ一台ずつ設置し、連続観測を行っている。佐多とダーウィンでは、630.0nm 大気光の全天画像がそれぞれ 5.5分、6分の時間分解能で得られる。また、ダーウィンでは、30分毎に777.4-nm大気光の全天画像も得ることができる。ダーウィンの地磁気共役点は、(28.8N, 131.3E) であり、佐多から南東方向に250km離れている。全天カメラは、観測点を中心に約1,000km四方の大気光(発光層が高度250kmにあると仮定)の構造を観測することができるため、佐多の全天カメラの観測範囲とダーウィンでの観測範囲の磁気共役点は大部分が重なる。

佐多とダーウィンに設置された全天大気光カメラの視野。 ダーウィンのカメラの視野を磁気共役点に投影したものも示す。



観測結果

2001年10月18日


佐多とダーウィンで同時(12:44UT)に観測された630.0nm大気光の全天画像 (それぞれ、左図と右図)。どちらの画像も上が北、左が東であり、真中が天頂にあたる。大気光発光強度の減少している領域が、低緯度から高緯度に向かって伸び、数箇所で枝分かれしていることが分かる。これは、赤道プラズマバブルによるものである。
佐多の画像(左図)で、左上から右下に伸びる筋はドームについた汚れ。ドームには水滴も付いている。また、ダーウィンの空は一部雲がかかっている。

2001年11月12日

全天画像


佐多とダーウィンでほぼ同時に観測された630.0nm大気光の全天画像 (それぞれ、左図と中図)。右図は、ダーウィンで観測された777.4nm大気光の全天画像。画像の上が北、左が東であり、真中が天頂にあたる。大気光発光強度の減少している領域が、低緯度から高緯度に向かって伸び、数箇所で枝分かれしていることが分かる。これは、赤道プラズマバブルによるものである。


地理座標系に投影


佐多で観測された630.0nm大気光の全天画像を地理緯度・経度座標系に変換したものを左図に示す。右図は、ダーウィンで観測された630.0nm大気光の全天画像(図2(b))を磁力線に沿って北半球に投影したものである。図の濃淡は、大気光発光強度をRayleighで示す。ここで、大気光発光層の高度を250kmと仮定した。発光強度減少領域の東西方向の空間スケールは、約40-100kmである。両図における発光強度の減少領域の構造が良く一致していることが分かる。
図の左にapex高度を示す。プラズマバブルは、磁気赤道上で高度1,700kmまで達していることが分かる。また、左図において、佐多の低緯度側の大気光発光強度が増大(約1kR)しており、緯度勾配が急になっている。これは、赤道異常による電子密度増大領域が高緯度側へ拡大したためだと考えられる。一方、ダーウィンではこのような発光強度の増大は見られず、発光強度の南北非対称性が大きいことが分かる。

プラズマバブルの移動(東向き)


1503--1614UT(0003--0114LT)の間に佐多で観測された630.0nm大気光の水平二次元図を約15分間隔で示す。プラズマバブルは東向きに約100m/sで移動している。この視野内では、プラズマバブルの形はほとんど変化していない。


2002年4月7日

1203-1352UT(2103-2252LT)の間に滋賀県信楽町で観測された630.0nm大気光の全天画像を約5分間隔で示す。プラズマバブルが東向きに移動しているのが分かる。