地上ネットワーク観測グループ

研究紹介

研究目的と概要

本研究グループは、高緯度から赤道に至る高度80-1000 kmに存在する"中間圏"、"電離圏(または熱圏)"や、さらに遠くの地球半径の数十倍まで広がる"磁気圏"と呼ばれる領域を主な研究対象としています。中間圏や熱圏の基本的な構造は太陽放射エネルギーが作っていますが、その構造は下層の対流圏擾乱や、磁気圏から降ってくるプラズマによって引き起こされる極域のオーロラなどによって常に乱されています。このような環境を理解し、その変動過程を観測的に明らかにすることが研究の目的です。電離圏や磁気圏は宇宙基地が飛翔する領域であり、電離圏プラズマの擾乱は衛星通信や衛星測位に障害を与えることがあり、人類の本格的な宇宙利用にとっても、その電磁気的環境を知っておくことが必要です。 電波や光の利用技術の発達はめざましく、地球の大気や電磁気圏の研究発展に重要な貢献をしています。私達は、両技術を用いた高度80〜20,000 kmの電磁気圏プラズマや高度80〜500 kmの中間圏・熱圏中性大気の観測に力点を置き、観測データと他の観測手段によるデータとを併せて解析し、以下のようなテーマで電離圏環境とその変動を研究しています。


中・高緯度電離圏擾乱の研究

電離圏・熱圏にはいろいろな空間波長を持つ波動が昼夜の別なく存在しています。特に、波長が150〜500 km、周期が数十分、伝搬速度が100〜200 m/sの波動を"MSTID(中規模伝搬性電離圏擾乱)"と呼びます。私達は、夜間大気光(高度80〜300 kmの大気が夜間に発光する現象)を測定するための全天カメラを国内の3点とオーストラリア・ダーウィン、インドネシア、カナダ北極域などに設置しています。MSTIDが存在すると大気光強度の空間分布に濃淡構造が現れます。大気光強度は電子密度に比例するため、観測から電子密度の水平面2次元分布が分かります。一方、高度約2万kmを飛翔するGPS衛星が発射する2周波の電波を地上で受信すれば、同様な2次元分布を知ることができます。私達は、国土地理院が全国に有する1000以上のGPS受信機で得られるデータと、全天カメラで得られるデータを併せてMSTIDの研究を行っています。その結果、夜間のMSTIDは南西方向伝搬すること、その発生には電気力学過程が重要なこと、MSTIDが地球磁力線で繋がった南北両半球で同時に発生することなどが分かってきましたが、MSTIDの源やMSTIDが電離圏・熱圏の力学やエネルギー収支に果たす役割などは不明です。


上部中間圏から熱圏(電離圏)高度におけるプラズマ・中性大気現象

電離圏のプラズマは激しい乱流状態になることがあります。私達は国内の大型レーダーを使って乱流の研究を行っています。強力な電波を上空に発射し、乱流プラズマで散乱されたレーダーエコーを調べることにより、乱流の生成機構や無線通信などへの影響を知ることができます。このような研究は基礎プラズマ物理にも貢献します。また、南北極のオーロラ帯に多数設置されている短波レーダーを用いて、高緯度電離圏内のプラズマの運動や夏季の高度80〜90 kmに出現する特異な中間圏レーダーエコー(PMSE)の研究も行っています。PMSEは地球温暖化に伴う超高層大気の寒冷化に関係していると思われています。


同じ時刻の大気光観測(左)とGPS観測(右)から得られた、日本列島の上空を北東から南西へ伝搬するMSTID


赤道域電離圏擾乱の研究 

磁気赤道付近の電離圏では、他の緯度帯では見られないような特異な現象が発生します。その典型例が、太陽活動が高い時期の春秋に発生する"プラズマバブル"と呼ばれるものです。これは、日没後の下部電離圏に発生した電子密度の"穴(バブル)"が時間とともに成長しながら高々度へと広がり、かつ東向きに移動する現象です。この現象が注目を集める理由は、バブル生成に関わる物理過程の複雑さ(面白さ)と、バブルが衛星通信障害の原因になることです。私達は、鹿児島県佐多とオーストラリア・ダーウィンに設置された全天カメラにより、赤道上空で最高々度が1700kmにも達する巨大なプラズマバブルの観測に初めて成功しました。両地点で観測されたバブルの構造は非常によく似ており、バブルが地球磁力線に沿って南北に延びた構造をしていることが分かりました。このようなバブルの生成過程には未だ多くの謎が残されています。対流圏から電離圏に伝搬してくる大気重力波がバブルの種になっていると推測されていますが、今後も観測研究が必要です。 私達は、バブルに絡んだ諸現象を解明するため、赤道直下のインドネシア・スマトラ島のコトタバンに観測拠点を持っています。そこに全天カメラ、GPS受信機、VHFレーダーなどを設置して連続観測を行っています。



佐多(左)とダーウィン(右)の大気光全天カメラで同時に観測された、南北半球の対称性が非常によいプラズマバブル(暗い部分)


インドネシア・コトタバンに設置されている大気光観測小屋



中間圏大気重力波の研究

地球の重力が主役を果たす大気の振動を"大気重力波(AGW)"と呼びます。様々な過程で発生した対流圏のAGWは、波動として上層へと伝搬してエネルギーと運動量を輸送し、上部中間圏で砕波して背景の風系を変化させます。このような過程が地球大気の循環に大きく関与していることが分かっています。高度80〜100 km付近の上部中間圏における大気力学過程を知るには、そこでの大気波動の性質を観測的に調べることが重要です。  私達は、国内3地点とオーストラリア、インドネシア、カナダに設置した全天カメラを用いて、AGWの統計的性質(出現特性、波長、周期、伝搬方向など)とそれらの地域による違い、AGWが運ぶ運動量などの研究を行っています。また、上部中間圏の温度構造とその変化を測るための分光温度計を設置し、観測を開始しました。


全天カメラがとらえた高度96 km付近の夜間大気光強度の2次元分布。AGWによる構造が見える。



低緯度オーロラの研究 

太陽活動最大期には太陽フレアが多発し、電離圏・熱圏は嵐に巻き込まれます。その結果、北海道や本州北部では、肉眼では確認しにくいが、赤いオーロラが観測されることがあります。極域のオーロラはかなり研究が進んできましたが、低緯度で観測されるオーロラの詳しい生成機構の解明は今後の課題です。


北海道陸別の全天カメラで観測されたオーロラ(光の強度を疑似カラー表示)



北極域のオーロラの研究 

 北極域のオーロラはこれまでさまざまな観測がなされてきました。私たちは非常に高感度のカメラや分光器を製作して、これまで中低緯度で目に見えないオーロラや大気光の観測を行ってきました。この技術を生かして、非常に暗いレベルの光からオーロラを観測することにより、これまで見えなかったオーロラの特性を明らかにしていきます。


カナダ北極圏で撮影されたオーロラ




地上ネットワーク観測グループのホームページへ戻る

電磁気圏環境部門(2部門)のホームページへ