ジガンスク誘導磁力計の製作
2部門の塩川先生から、ジガンスク(ロシア)に設置する誘導磁力計を製作してほしいと依頼が ありました。以下はその製作記録です。 ●誘導磁力計について 誘導磁力計は、非常に微弱な地磁気変動をとらえる観測装置です。地磁気変動は、磁気嵐や オーロラの発生と関係があります。誘導磁力計は、センサー(10万回巻いたコイル)により、この 微弱な地磁気変動を電圧に変換し、プリアンプやメインアンプにより十分な大きさの電圧に増幅後、 A/Dボードを積んだPCに入力して、地磁気変動をデータとして保存します。現象の検出周波数範囲は 0.1Hz〜30Hzです。下図は、今回作った誘導磁力計の構成図です。 ![]() センサーは、テラテクニカ製のものを使っています。H、D、Zと3本あるのは、南北方向(H)、東西方向(D)、 垂直方向(Z)の地磁気を計測するためです。センサーの近くにはプリアンプを置いて、とらえた微弱信号 を大幅に増幅しています。プリアンプの設置の目的は、その後に、300mケーブルで信号を伝送する ため、ノイズが乗りやすく、そのノイズ(N)に対して十分なS/N比を取るために、早い段階で信号(S)を大きく するためです。 300mの信号伝送後、メインアンプに入ります。メインアンプの機能は、信号増幅・電源ノイズの除去・ 帯域30Hzのローパスフィルタにより高周波ノイズの除去などがあります。 メインアンプで増幅されたH,D,Z信号は、GPS受信機が出力する1pps信号と一緒にデータ取得用 PCのA/Dボードに入力されます。 この1ppsは、現象が発生した時刻を正確に知るために入力されています。さらに、GPS受信機では、 64Hzクロック信号を発生しています。この信号は1ppsに同期しているため非常に精度が高いです (±1us程度の誤差)。この64HzクロックをA/Dボードのサンプリングクロックとして使うことで、測定 時刻の精度をさらに上げています。 ●誘導磁力計センサー テラテクニカ製です。 ![]() ●誘導磁力計センサーの防水パイプ 他の観測点では、誘導磁力計センサーを地面に直接埋めたため、降雨によりセンサーに水が浸入し、 観測できないトラブルが頻発しました(特に佐多)。そこで今回は防水用パイプを製作し、その中に センサーを封入することにより、雨水からセンサーを守ることを考えました。 防水パイプの製作においては、完全防水にすることは結構難しく、いろいろ試行錯誤繰り返しました。 下の写真のように、試作した防水パイプを水に沈め、浸水がないかどうか何回もチェックしました。 ![]() その結果として、3か月沈めても1滴も浸水がない防水パイプの作成に成功しました。 観測装置としては、10年使えること目標にしています。そこまで持つかどうかはまだわかりませんが、 少なくとも今までに比べたら、浸水に対して強くなっていると思います。 (今までは、現地対応で防水処理を行ってきましたが、このように防水試験を行ったことがありません) ![]() ●メインアンプ メインアンプは、技術職員の加藤さんが作られたパラツンカ用のもののコピーを製作しています。 低ノイズ、低DCオフセットを意識して設計されているようです。 ●プリアンプ プリアンプは、屋外に設置します。ジガンスクの外気温は、夏は+20℃、冬は-40℃にもなります。 この低い温度でも動作する回路を製作する必要がありました。この低温に耐えうる部品の選定に かなり苦慮しました。 また、温度差は60℃にもなり、この温度変動でもDC電圧がドリフトしにくい(DC増幅器なので)、 ヘッドアンプを設計しました。しかもヘッドアンプなので低ノイズである必要があります。 また、現地にはイオノゾンデであるらしく、その電波の回り込みにより、ノイズの影響を受けることが 考えられます。そこで、ヘッドアンプの前に強力な高周波フィルタを挿入しました。 今回は現地の環境に合わせて、出来るだけの配慮をしたつもりですが、本当に安定して動くかどうか は、実際に設置してみないとわからないところがあります。 ●GPS受信機 機能としては、A/Dボードのch4に入力するための1pps、A/Dボードのサンプリング用の64Hzクロック、 PCの時刻校正用のGPSデータを出力しています。中にGPSコア(GT-80)が入っており、ここからこれらの 信号を作り出しています。 ●最後に 今回は、観測地の環境が厳しいため、屋外に設置するプリアンプの設計と試作にかなりの時間を費やし ました。また、300mケーブルに-55℃に耐えるケーブルを選定したため、ケーブルが固くて重く、コネクタ取り つけに苦労しました。このケーブルの現地での引き回しも多少考慮が必要かもしれません。 あとは、現地でうまく動くことを願うばかりです。 |