2023年2月28日午前1時から4時頃(日本時間)にかけて、北海道にある 名古屋大学宇宙地球環境研究所の陸別観測所で、磁気嵐に伴う弱い低緯度 オーロラを観測した。このオーロラは前日から続いていた磁気嵐に伴って 発生している。このオーロラの最大の明るさは、酸素原子の発光輝線である 波長630nmの赤い光で約300 R(0.3 kR, レイリー、明るさの単位)、 波長557.7nmの緑の光で約500 R(0.5 kR)であった。この明るさではオーロラと 呼ぶよりも、大気光(通常50-100 R程度の明るさ)の増光、と呼んだ方が よいかもしれないが、磁気嵐が発達している時間帯に北の地平線近くでしか 見えていない、という特徴は、これまで北海道で観測された低緯度オーロラの 特徴と一致している。 観測は高感度全天カメラ(魚眼レンズ付き)、磁力計、固定型フォトメータを 用いて行われた。以下にその図を示す。今回のオーロラは肉眼では見えない 明るさである(肉眼で見える波長630nmの赤い光の明るさは個人差はあるが 数kR程度)。
1. All-Sky Images at 630nm in Absolute Intensity in False-Color 波長630nmの発光を全天カメラでとらえた画像。光の強さをレイリー単位で 疑似カラー表示で表す。魚眼レンズの像なので、上が北。左が東。右が西、下が南。 画面の中心が天頂。北の地平線近く(画面の上の端)にオーロラに伴う最大300 R (0.3kR)程度の増光が見える。北西方向に見える光は陸別の街明かり。露出は40秒。 画面の上に出ている時刻はUT(グリニッジ標準時)なので、日本時間に直すには 9時間加える。19時UT以降に西の空が明るくなるのは明け方の薄明光。画面の下半分の 地平線近くに見えているのは、魚眼レンズの上に乗っているシャッターの羽。2. All-Sky Images at 557.7nm in Absolute Intensity in False-Color 波長557.7nmの発光を全天カメラでとらえた画像。光の強さをレイリー単位で 疑似カラー表示で表す。魚眼レンズの像なので、上が北。左が東。右が西、下が南。 画面の中心が天頂。北の地平線近く(画面の上の端)にオーロラに伴う最大500 R (0.5 kR)程度の増光が見える。北西方向に見える光は陸別の街明かり。露出は30秒。 画面の上に出ている時刻はUT(グリニッジ標準時)なので、日本時間に直すには9時間加える。3. All-Sky Images at 572.5nmm in Raw Counts in False-Color 波長572.5nmの空の背景光(大気光やオーロラの発光輝線がない波長の光の強さ)を 全天カメラでとらえた画像。光の強さを受光部であるCCDカメラのカウント値で 表す。魚眼レンズの像なので、上が北。左が東。右が西、下が南。画面の中心が天頂。 北の地平線近く(画面の上の端)には発光がみえないため、上記の波長630nmや557.7nmの 画像に写っている北の地平線近くの光が、背景光や街明かりではなくオーロラの 発光であることが分かる。北西方向に見える光は陸別の街明かり。露出は30秒。 画面の上に出ている時刻はUT(グリニッジ標準時)なので、日本時間に直すには 9時間加える。4. Magnetic Field and A Northward-Looking Photometer 2月27日に陸別で観測された磁場変化(時刻はUT)と、北の方向地平線から 15度を見ているフォトメータのデータ。下の3つのパネルは地磁気の H, D, Z(北向き、東向き、下向き)成分。磁気嵐にともなって地磁気が大きく 変動していることがわかる。上の3つのパネルは北の地平線から15度の 方角を見ている固定型フォトメータのデータ。感度が1kR程度なので、全天 カメラで見えた0.3-0.5kRのオーロラ発光はこのフォトメータのデータからは 同定が難しい。1時間に一回、校正のためのランプの光が入っている。5. Summary Images of Three Wavelengths at 1710-1720 UT 上記の3つの波長の画像を比べた図。北西の街明かりは全ての波長で 見えているのに対し、北の空(画面の上)のオーロラは波長630nmと 557.7nmのみに見えており、572.5nmでは見えていないので、 この北の光が街明かりではないことが分かる。6. Photo at the Hokkaido Rikubetsu HF radar site at 1703 UT 陸別にある北海道陸別HFレーダーサイトから17:03 UTに北に向けて撮影された カラーデジタルカメラの写真。地平線近くに見える2つの光は街明かり。 上記の高感度カメラで計測されたとおり、オーロラの明るさは弱いので、 この写真ではオーロラがあるかどうかの判別は難しい。名古屋大学 宇宙地球環境研究所の西谷望准教授提供。7. Magnetic Field and A Northward-Looking Photometer at Moshiri 2月27日に、北海道の幌加内町にある母子里観測所で観測された磁場変化 (時刻はUT)と、北の方向地平線から20度を見ている固定型フォトメータのデータ。 下の3つのパネルは地磁気のH, D, Z(北向き、東向き、下向き)成分。陸別と同じ ように磁気嵐にともなって地磁気が大きく変動していることがわかる。上の3つの パネルは北の地平線から20度の方角を見ている固定型フォトメータのデータ。 観測開始直後の10時UT頃から、赤い光の630nmの発光が2kR以上に達しているが、 これはこの時間に空に出ていた月明りの影響が考えられるので、このデータだけ からでは、強い赤いオーロラが出ていたかどうかは分からない。月が地平線以下に 沈んで陸別で高感度全天カメラの観測が開始された16時以降は、陸別の固定型 フォトメータのデータと同程度の明るさになっている。1時間に一回、校正の ためのランプの光が入っている。Special thanks to: 陸別町銀河の森天文台 横関信之様(名古屋大学宇宙地球環境研究所・陸別観測所)
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