2023年4月24日午後10時50分から翌日2時頃(日本時間)にかけて、北海道にある 名古屋大学宇宙地球環境研究所の陸別観測所で、磁気嵐に伴う弱い低緯度 オーロラを観測した。このオーロラは前日から続いていた磁気嵐の回復相に伴って 発生している。このオーロラの最大の明るさは、酸素原子の発光輝線である 波長630nmの赤い光で約300 R(0.3 kR, レイリー、明るさの単位)、であった。 この明るさではオーロラと呼ぶよりも、大気光(通常50-100 R程度の明るさ)の 増光、と呼んだ方がよいかもしれないが、磁気嵐が発達している時間帯に北の 方角で東西方向に拡がっており、波長557.7nmの緑の光では見えていない、 という特徴は、これまで北海道で観測された低緯度オーロラの特徴と一致している。 観測は高感度全天カメラ(魚眼レンズ付き)、磁力計、北の空を見ている3波長 フォトメータ、天頂付近を見ている分光温度フォトメータを用いて行われた。以下に その図を示す。今回のオーロラは肉眼では見えない明るさである(肉眼で見える 波長630nmの赤い光の明るさは個人差はあるが数kR程度)。
1. All-Sky Images at 630nm in Absolute Intensity in False-Color 波長630nmの赤い発光を全天カメラでとらえた画像。光の強さをレイリー単位で 疑似カラー表示で表す。魚眼レンズの像なので、上が北。左が東。右が西、下が南。 画面の中心が天頂。天頂から北の空(画面の上の方)にかけてオーロラに伴う最大300 R (0.3kR)程度の増光が見える。北西方向に見える光は陸別の街明かり。露出は40秒。 画面の上に出ている時刻はUT(グリニッジ標準時)なので、日本時間に直すには 9時間加える。17時UT以降に北東の空が明るくなるのは明け方の薄明光。画面の下半分の 地平線近くに見えているのは、魚眼レンズの上に乗っているシャッターの羽。 17:00UT以降に画像が明るくなるのは、薄明光だけでなくカメラの受光部の電気的な 不安定性の可能性がある。なお、通常はこの絶対輝度の画像を作成する際に、波長 572.5nmで取得した背景光の画像を差し引いているが、今回はこの背景光の画像の カウントが異常に低いという問題があるので、差し引きは行っていない。2. All-Sky Images at 557.7nm in Absolute Intensity in False-Color 波長557.7nmの緑の発光を全天カメラでとらえた画像。光の強さをレイリー単位で 疑似カラー表示で表す。魚眼レンズの像なので、上が北。左が東。右が西、下が南。 画面の中心が天頂。上の630nm(赤い光)の画像と違い、北の方角に特に明るい発光は 見えない。北西方向に見える光は陸別の街明かり。露出は30秒。画面の上に出ている 時刻はUT(グリニッジ標準時)なので、日本時間に直すには9時間加える。なお、 通常はこの絶対輝度の画像を作成する際に、波長572.5nmで取得した背景光の画像を 差し引いているが、今回はこの背景光の画像のカウントが異常に低いという問題が あるので、差し引きは行っていない。3. Magnetic Field and A Northward-Looking Photometer at Rikubetsu 4月24日に陸別で観測された磁場変化(時刻はUT)と、北の方向地平線から 15度を見ているフォトメータのデータ。下の3つのパネルは地磁気の H, D, Z(北向き、東向き、下向き)成分。前日から開始した磁気嵐の 回復相において、地磁気の北向き(H)成分が負になっていたのが徐々に 戻ってきているのが分かる。上の3つのパネルは北の地平線から15度の 方角を見ている3波長フォトメータのデータ。感度が1kR程度なので、全天 カメラで見えた0.3kRのオーロラ発光は、このフォトメータのデータからは 同定が難しい。1時間に一回、校正のためのランプの光が入っている。 観測開始直後(09:20 UT)と終了直前(18UT付近)で明るくなっているのは オーロラではなく薄明光と思われる。4. Magnetic Field and A Northward-Looking Photometer at Moshiri 4月24日に母子里観測所(北海道雨竜郡幌加内町)で観測された磁場変化(時刻はUT)と、 北の方向地平線から20度を見ているフォトメータのデータ。下の3つのパネルは地磁気の H, D, Z(北向き、東向き、下向き)成分。陸別とほぼ同じ地磁気変化が見える。 上の3つのパネルは北の地平線から20度の方角を見ている3波長フォトメータのデータ。 観測開始直後に630nmの赤い光の明るさが顕著に明るくなっている。 (次の日のデータ)と比べてみても、かなり上がっている。 但し薄明の時間なので、単に薄明光が強かっただけの可能性がある。この 明るさは急速に減少し11UT過ぎには無くなっている、という特徴も、 薄明光の特徴と合っている。このため、オーロラなのか薄明光が強くなっただけなのか、 判断が難しい。1時間に一回、校正のためのランプの光が入っている。5. Zenith-looking Airglow Temperature Photometer 天頂付近を視野角約32度で計測している分光温度フォトメータのデータ。 下から2番目のパネルに示した波長630nmの光の明るさが100Rから次第に 上昇し、16UT頃に260Rに達していることが分かる。 この分光温度フォトメータの詳細に関しては、 こちら を参照。6. Summary Images of Three Wavelengths at 1710-1720 UT 上記の2つの波長の画像を15:17-15:21 UT(日本時間で00:17-00:21時)で 比べた図。ほぼ同じ時刻に撮影しているが、北の空(画面の上)のオーロラは 波長630nmのみに見えており、557.7nmでは見えていないので、この北の光が 街明かりや雲の光ではないことが分かる。7. All-Sky Image Movie at 630nm in Black and White 波長630nmの赤い発光を全天カメラでとらえた画像を時間的に連続的に並べて動画に した図。魚眼レンズの像で、1と上下がさかさまになっており、下が北。左が東。 右が西、上が南。画面の中心が天頂。天頂から北の空(画面の下の方)にかけて 徐々にオーロラが拡がってくる様子が分かる。画面の上に出ている時刻はUT (グリニッジ標準時)なので、日本時間に直すには9時間加える。17時UT以降に 北東の空が明るくなるのは明け方の薄明光。画面の上半分の地平線近くに見えている のは、魚眼レンズの上に乗っているシャッターの羽。17:00UT以降に画像が 明るくなるのは、薄明光だけでなくカメラの受光部の電気的な不安定性の可能性がある。8. All-Sky Image Movie at 557.7nm in Black and White 波長557.7nmの緑の発光を全天カメラでとらえた画像を時間的に連続的に並べて動画に した図。魚眼レンズの像で、2と上下がさかさまになっており、下が北。左が東。 右が西、上が南。画面の中心が天頂。6の動画と異なり、東西の縞模様が北東方向 (画面の左下)に向かって動いていく様子が分かる。これは高さ95km付近の中間圏界面 で発生している大気重力波を、この高度で光っている波長557.7nmの緑色の大気光を 通して見ていると思われる。6の波長630nmの動画とは全く異なる画像が写っているため、 6や7に写っている構造は、雲や街明かりによるものではなく、オーロラや大気光の 構造であることが分かる。画面の上に出ている時刻はUT(グリニッジ標準時)なので、 日本時間に直すには9時間加える。17時UT以降に北東の空が明るくなるのは明け方の 薄明光。画面の上半分の地平線近くに見えているのは、魚眼レンズの上に乗っている シャッターの羽。17:00UT以降に画像が明るくなるのは、薄明光だけでなくカメラの 受光部の電気的な不安定性の可能性がある。9. Photo by a color camera (24mm, f2.8, ISO1600, 15sec exposure) by Hiroyuki Tsuda カラーカメラで撮影された写真(津田浩之さん提供)。北極星の付近までぼんやりと赤く写っている。地平線近くの緑の光は街明かり。 場所:私設 陸別天体観測所 撮影日時:2023年4月25日0時14分JST (4月24日15:14 UT) ニコン:D810A レンズ24mm f2.8、ISO1600 露出15秒 撮影:津田浩之Special thanks to: 陸別町銀河の森天文台 横関信之様(名古屋大学宇宙地球環境研究所・陸別観測所)
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