北海道で観測された低緯度オーロラ (2024年5月11日)


2024年5月11日午後8時27分、陸別町ポントマムの北海道-陸別HFレーダーサイトで 撮影された低緯度オーロラの写真。左側で地平線近くに赤く光っているのがオーロラの発光。 提供:名古屋大学宇宙地球環境研究所 西谷望准教授。


2024年5月11日午後8時から翌日2時頃(日本時間)にかけて、北海道にある名古屋大学
宇宙地球環境研究所の陸別観測所及び母子里観測所で、磁気嵐に伴う低緯度オーロラを
観測した。このオーロラは前日朝から開始していた巨大磁気嵐の回復相において
発生している。このオーロラの最大の明るさは、酸素原子の発光輝線である波長630nmの
赤い光で母子里観測所で約5 kR(キロレイリー、明るさの単位)、であった。また、
滋賀県信楽町にある信楽MU観測所でもわずかにオーロラらしい発光が北の地平線近くに
曇りがちながらも確認できている。

観測は高感度全天カメラ(陸別、信楽)、磁力計(陸別、母子里)、北の空を見ている3波長
フォトメータ(陸別、母子里)を用いて行われた。以下にその図を示す。今回のオーロラは
母子里では肉眼で見える明るさだったと思われる(肉眼で見える波長630nmの
赤い光の明るさは個人差はあるが数kR程度)。


1. Magnetic Field and A Northward-Looking Photometer at Rikubetsu
5月10-11日に陸別で観測された磁場変化(時刻はUT)と、北の方向地平線から
15度を見ているフォトメータによる北の空の明るさ。下の3つのパネルは地磁気の
H, D, Z(北向き、東向き、下向き)成分。5月10日17UT過ぎからH, D成分に大きな変動が
見られ、磁気嵐が開始している。5月11日はこのH成分の減少がだんだん戻ってきており、
磁気嵐が回復相にある事が分かる。

上の3つのパネルは北の地平線から15度の方角を見ている3波長フォトメータの
データ。波長630nmの赤い光(上から3番目のパネル)の明るさが観測開始時に前日に
比べて大きく上昇しており、雲の移動によるばらつきはあるが、11-12UT(日本時間の
20-21時)に2kR付近まで達している。同時に観測している波長557.7nmの緑の光や
波長427.8nmの青い光(上から1番目と2番目のパネル)にはこのような増光は見られない。
その後、この赤いオーロラは明け方近くの17UT(日本時間02時)頃まで明るさが減少しながら
継続している。この晩は陸別は薄い雲やもやがかかっており、雲の濃淡が変わって
オーロラの明るさが変わっている。

2. Magnetic Field and A Northward-Looking Photometer at Moshiri
5月11日に母子里で観測された磁場変化(時刻はUT)と、北の方向地平線から15度を
見ているフォトメータによる北の空の明るさ。下の3つのパネルは地磁気のH, D, Z
(北向き、東向き、下向き)成分。陸別と同様に、5月10日17UT過ぎからH, D成分に
大きな変動が見られ、磁気嵐が開始している。5月11日はこのH成分の減少がだんだん
戻ってきており、磁気嵐が回復相にある事が分かる。

上の3つのパネルは北の地平線から15度の方角を見ている3波長フォトメータの
データ。波長630nmの赤い光(上から3番目のパネル)の明るさが観測開始時に前日に
比べて大きく上昇しており、11-12UT(日本時間の20-21時)に5kRまで達している。
同時に観測している波長557.7nmの緑の光や波長427.8nmの青い光(上から1番目と
2番目のパネル)にはこのような増光は見られない。427.8nmの青い光は赤い光と同じ
ように観測開始直後と14-15UTにわずかに増加している。この赤いオーロラは明け方
近くの18UT(日本時間03時)頃まで明るさが減少しながら継続している。
母子里の方が陸別よりも少し北にあり、また陸別に比べて晴天であったために、
より明るいオーロラが観測されていると思われる。

3. All-Sky Images at 630nm in Absolute Intensity in False-Color at Rikubetsu 
陸別で波長630nmの赤い発光を全天カメラでとらえた画像。光の強さをレイリー単位で
疑似カラー表示で表す。魚眼レンズの像なので、上が北。左が東。右が西、下が南。
画面の中心が天頂。露出は40秒。東西から南の地平線近くに見えているのは、
魚眼レンズの上に乗っているシャッターの羽。時刻はUT(ユニバーサルタイム)で、
日本時間にするためには9時間を加える。

観測開始(13:13:35 UT = 21:13:35 JST)から観測終了(17:04:35 UT = 02:04:25 JST)
まで、北から天頂にかけて画面の上半分にオーロラによる発光が見られる。但し
雲やもやがかかっているので、構造はよくわからない。途中で画像が真っ黒になって
いるのはカメラの画像データ伝送エラー。

4. All-Sky Images at 630nm, 557.7nm, and 720-910nm in Absolute Intensity in False-Color at Shigaraki 
滋賀県の京都大学信楽MU観測所で波長630nmの赤い発光、波長557.7nmの緑の発光、
波長720-910nmの近赤外域の発光を全天カメラで撮影した画像。光の強さをレイリー単位で
疑似カラー表示で表す。但し近赤外の画像は透過バンド幅が広いので単位はカメラのカウント値。
魚眼レンズの像なので、上が北。左が東。右が西、下が南。画面の中心が天頂。
露出時間は630nmが2分45秒、557.7nmが1分45秒。720-910nmは15秒、時刻はUT
(ユニバーサルタイム)で、日本時間にするためには9時間を加える。

赤い矢印で示したように、14:38:30 UT(=23:38:30 JST)と15:03:00 UT(=00:03:00 JST)の画像に、
北の地平線近くに、波長630nmの赤だけが光って波長557.7nmの緑や近赤外が光っていない部分が
見える。これが低緯度オーロラの発光と思われる。この2つの時間帯の画像は星も見えており、
信楽では比較的雲が少なかったと思われる。それ以外の時間帯は全体的に雲がかかっている。
雲による街明かりの反射の場合は、3つの波長帯の画像が全て明るく見えるので、
赤だけが光るオーロラと雲による街明かりの反射が区別ができる。特に雲は近赤外域で
明るく写る。



Special thanks to: 陸別町銀河の森天文台
     横関信之様(名古屋大学宇宙地球環境研究所・陸別観測所)
     池神優司様(名古屋大学宇宙地球環境研究所・母子里観測所)
    加藤泰男様(名古屋大学全学技術センター)
    山本優佳様(名古屋大学全学技術センター)
    足立匠様(名古屋大学全学技術センター)
       京都大学生存圏研究所信楽MU観測所

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